『エチカ(上)』 スピノザ著 畠中尚志訳(その6)

第二部 精神の本性および起源について No4

第二部は定理13と定理14の間に追加公理と補助定理が挿入されている。
これらの公理・定理はスピノザ流の物理学のようであり、人間身体を論じる前に必要なのだろう。以前読んだときは煩瑣に感じられたのだが、永遠相から持続相まで論理を一貫させると、こうならざるを得ないと思えてくる。ポーの『ユリイカ』のような空想とは訳が違うのである。

補助定理3 運動あるいは静止している物体は、他の物体から運動あるいは静止するように決定されねばならなかった、この後者も同様に他の物体から運動あるいは静止するように決定されている、そしてこれもまたさらに他の物体から決定され、このように無限に進む。

問題は神は万物の原因なのだが、永遠・無限の神からなぜ有限物が生じるのかである。
スピノザの考え方は、神はすべてに変状しうるのだから、永遠・無限である限りでの神からは永遠・無限の直接無限様態しか生じないが、有限物に変状した限りでの神から有限物が生じるということである。だから有限物の運動・静止の原因は隣の有限物なのだが、その隣の有限物は様態に変状した限りにおいての神なのである。次の文がそのことを示している。この補助定理の証明もこの文を援用している。

(有限物は)神のある属性がある様態に変状したと見られる限りにおいて神ないし神の属性から生起しなければならぬ。(第一部定理28証明)

こうしてみると物が他の物の原因である理由は、神の産出力が持続相において現れたものだと言える。持続相だから有限物どうしの関係となるのだ。原因を一方的に受ける物の本質は産出力とはいえないが、物は必ず他に原因を持つと同時に、自らも他の原因となる。自らが他の原因になるという点では産出力といえる。ただ時間的持続だから、原因となる役割が交互に変るのである。永遠相における産出力が垂直の一方向であるのに対し、持続相における産出力は時間的な因果関係として水平方向になることが分かる。有限物に変状した限りでの神は、いわば「ぐでたま」のように横になるのである。
なぜそんな面倒臭いことになるのかといえば、それは有限である私や他の物が現に存在するからである。そのことを前提として永遠・無限の神が万物の原因であるとするならば、論理としてそういう面倒臭いことにならざるを得ないのである。これ以外の考え方は、神と有限物との関係をよく理解していないし考えてもいないということになる。
次の定義は非常に重要であるにも関わらず唐突である。定義番号も付していない。おそらくドゥルーズの「構成関係」はこの定義を根拠としているのだろう。

定義 同じあるいは異なった大いさのいくつかの物体が、他の諸物体から圧力を受けて、相互に接合するようにされている時、あるいは(これはそれらいくつかの物体が同じあるいは異なった速度で運動する場合である)自己の運動をある一定の割合で相互に伝達するようにされている時、我々はそれらの物体がたがいに合一していると言い、またすべてが一緒になって一物体あるいは一個体を組織していると言う。そしてこの物体あるいは個体は、構成諸物体のこうした合一によって他の諸物体と区別される。

つまりくっつくにせよ、距離をもって運動を伝達し合うにせよ、ある構成関係のもとで合一している諸個体のグループを一個体とするというのである。分子・原子で構成される人間身体などが良い例であろう。他の物体もそうである。さらに構成関係を大きくとらえると人間社会も一箇の個体である。
だが、この定義では何が「構成関係」を形成しているのかといえば、それは「他の諸物体から圧力を受けて相互に接合するようにされている時」なのである。
だがいくら他の諸物体から強制されて構成されたにせよ、「一物体あるいは一個体を組織している」のだから、その構成関係は当該個体の形相となるのだ。
これは「他の諸物体」を有限物に変状した限りでの神とみなせば、神が当該個体の形相を構成したのだとみることもできる。例えば有限物の親は子の本質を構成することはできないが、有限物に変状した限りでの神としての親は子の本質を構成するのである。

補助定理4証明(抜粋) 個体の形相を構成するものは(前定義により)<単に>構成物体の合一に存する。

この定義と補助定理4を組み合わすと、ドゥルーズのいう「構成関係」(=構成物体の合一)が個体の形相的本質であることが分かる。ドゥルーズが人間が死んでも構成関係は永遠に残るというのは、それが形相的本質だからである。
前回、私は「構成関係」を人間精神の現実的本質であると述べたが、ここでは人間精神ではなく、人間身体が問題となっている。人間身体の構成関係は「形相的本質」なのかもしれない。いずれにせよ、私は『エチカ』の文言に基づいて推測しているのだが、これらの本質と「構成関係」との関係は読み進めながら検討していきたい。